1月、もっと映画館は乾燥しているだろうから、マスクを持って行こう。
流行りの戦争映画を友人が強く勧めてくるので、その答え合わせを兼ねて半ば仕方なしに足を運んだ。
ポップコーンのLサイズにドリンクが2つのセットを頼む。ここでのみ、かき氷の緑色シロップと炭酸水を混ぜただけの自称メロンソーダを選ぶと決めている。
チケットに記載された「(1)-イ」の指定席へ向かう。通路に面した座席下部にある足元を照らす電灯にはバッテリーが入っており、停電時に光るらしい。
映画が始まる前には、すでに紙バケツ内のポップコーンが半分くらいに減っていた。
そして定刻となり、スクリーンの両サイドにある非常口を示す緑色の電灯と共に場内の照明が落とされた。
戦争があったことについては教育を受けていたし、どんなことが起こったかも広く浅く知っていた。
しかし、その時代を生きた一人の物語について深くは全く触れたことが無かった。
衝撃的だった。
優秀な零戦操縦士が、その時代の異常さに心を壊され、最終的に特攻という命を捨てる選択をした話。
何という残酷さだ。
彼には愛する家族がいて、仕事の実力も申し分なくあった。そんな人物が生まれた時代のせいで、幸せになる権利を奪われていた。
考えられない。
今の自分達は、そんな先人たちが狂い果て、命を投げ出してまで目指していた平和を、何の努力もせず当然のものとして享受している。
贅沢この上ない日々を、ただ生まれた時代が違っただけで過ごせている。
零戦のアクセルを全力で踏み、歯を食いしばって突撃する主人公の表情で幕が下りた時、打ちひしがれた。
号泣し続け、しばらく劇場から出られなかった。
ハンカチを差し出してくれた彼女も、少し引いていた。
数年後の正月にテレビで公開された、その映画を職場の先輩がコタツで蜜柑しながら夫婦で鑑賞したとのこと。
壮絶なラストシーンの後に、その先輩が『え?これで終わり?』と言い、奥さんが興ざめしたらしい。
ちょっぴり残酷なことが起こる今日も、圧倒的な平和の上に成り立っている。
この時代で流す涙など、すぐに1月の冷たく乾いた風がさらっていく。
価値観の違いで出会い別れを繰り返す等、贅沢な話だ。
【あとがき】
永遠の0を観た後、大号泣して劇場から暫く出られなくなった。あの時お付き合いしていた彼女、ドン引きしてたなぁ。(笑)
そんな永遠の0を観終わった時に『え?これで終わり?』って隣で言っちゃう人がパートナーだったら、嫌だなぁ‥。ほんでコレ実話ってのが怖い。(1)項イが映画館・劇場ってのは、1月の乾燥した映画館とコタツで鑑賞(=正月)ってイメージで1を想起してもらえば幸いです。